書籍レヴュー

三田平凡寺を巡る「非凡の人」の物語:感動と啓発のメッセージ



どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。


僕は、ロンドンのロイヤル・アカデミー (英国王立芸術院)という美術館・学校で、ギャラリー・アテンダントとして働いているのですが、そこの学長のレベッカ・ソルターさん(日本語ペラペラで、日本人の僕より数倍、いや、数百倍日本のことを知っている!)から、ある日、1冊の本をいただきました。

image taken from Amazon.co.jp


レベッカさんからは本をはじめ、ときどき日本関係のものをいただくので、最初はレベッカさんの言っていた

「日本の友達が、すごい量のこれを送ってきてくれたので…」

の意味がよくわかりませんでした。

… が、3〜4日して、キッチンに置いてあったその本の表紙に目をやると、カタカナで「ソルター・レベッカ」の文字が飛び込んできた。


「え。マジで!?」


著者のうちの1人になってるやん!!!


飄々と、さわやかな風をジェネレイトしながら、ロイヤル・アカデミーの建物の中を行ったり来たりするレベッカさんが、只者ではない事は以前から感じていたが、この明治時代から活躍していた、日本人にもあまり知られていないであろう、謎多き人物「三田平凡寺」の本に関わっていると知った時には、さらに謎 x 謎である。


というわけで、今回の記事では、2024年の1月末に出版された「三田平凡寺」についた書かれた「非凡の人」を紹介しています。

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三田平凡寺と「我楽他宗」

image by kotaeche

チェコ人で、立命館大学の教授である ヘレナ・チェプコヴァーさんが中心となり、この書籍に参加している他の著者たちからの協力を得て、正体を明らかにしようと努めた人物は、三田平凡寺(本名:三田林蔵)と呼ばれる、今から100年ほど前に「我楽他宗」たるものを率いたエキセントリックな人。

僕は、彼の存在自体を知らず、本のはじめの方で「南方熊楠と並べて紹介されている書物がある」と書かれていたので、かなり気性の荒い変人を思い描いていたのですが…


読み終えてみると、全く違うタイプの変人でした。

平凡寺さんは、

幼い頃の事故により、14歳で聴力を完全に失って以来、筆談でしかコミュニケーションが取れないという、ハンディーキャップの持ち主。



「一体そのような状態で、どのようにして国際ネットワーク集団の中心にいることができたのか?」というのが、彼を取り巻くミステリーの一つであり、この本のテーマのうちの一つでもあります。


彼は、人生理想の境地を「平凡」とすることをモットーとし、自分はメチャメチャ絵が上手いのに、師匠の小林清親に、作品を美術館に出品するように勧められても、アマチュアでいることを選び、さらには「我楽他宗」のメンバーになる条件としては、何か1つの物を集める収集家になるというだけで、男も女も、外国人も、肩書きも関係なく全ての人が平等。


通常、芸術運動のリーダーは権力者であるのに、それも放棄してしまっているという、ややこしい人です。(w)



さて、この本の素晴らしいところは…

それぞれの著者が、主人公である三田平凡寺の人物像や、日本、または世界における「我楽他宗」の位置を伝えようとする際に、当時の日本の社会の動きや風潮、そして海外諸国との関係についての説明が自然と伴うため、読者にとって歴史の勉強にもなる、というところ。



特に第3章では、平凡寺の孫であり、この本の著者の1人でもある夏目房之介さんが、当時の社会主義やアナーキズムの流行、前衛芸術の輸入など、時代背景を交えてながら、いろいろと説明してくれるところがうれしいですね。

神智学とは?

image by truthseeker08

この本を読んでいて気になったのが、たびたび出てくる「神智学」(Theosophy) という言葉。

19世紀末に設立された宗教哲学で、宇宙の神秘、霊的進化、そして人間の霊的成長に関する教義を含み、すべての宗教が共通の神聖な真理を持っていると主張、よって神智学は世界の宗教の根源にあるものとみなされる。

… だそうです。


でもって、なぜこの「神智学」が頻繁に出てくるかというと、この本の中で登場する「我楽他宗」を出入りする外国人メンバーの何人かが、この神智学に所属していたという事実があるらしいのです。

この「神智学」については、多摩美術大学で教授をしている安藤礼二さんが、第6章で詳しく書いてくれていますが、なんと、ロシアの芸術家のマレーヴィッチやカンディンスキーによる抽象表現が、この「神智学」から生まれたとのこと!


…で、平凡寺さんが率いた「我楽他宗」のモットーが、神智学の哲学と重なる部分があったため、海外からのメンツが「我楽他宗」に興味を持ったのでは、という推測がなされています。


神智学の影響を受けた、ロシアの神秘思想家で哲学者の ピョートル・デミアノビッチ・ウスペンスキー って人が書いた「テルティウム・オルガヌム」という本が、マレーヴィッチを「スプレマチズム」に導いたと書かれているので、ちょっと、と言うか、かなり読んでみたいです。

誰にオススメ?

image by jackmac34

この本を、誰に勧めたいか?と言われたら、やっぱり現在アート活動をしている人達に勧めたいですね。


アートは、それで飯を食っていこうと思ったら、やっぱりビジネスと切り離すことはできない。


でもって今の時代、インスタグラムなどで、いろんなアーティストの作品を観覧することができるため、売れたいあまりにトレンドを追っかけて、真似に走り、結局そのトレンドが終わったら自分も消えてしまう、っていうパターンが結構あるような気がします。


ビジネスに走る時点で、平凡寺さんのやっていた事とは、すでに正反対の位置になってしまうわけですが、いろんな物が豊富に揃いすぎている今の時代こそ、自分の位置を考える事がすごく重要になってくると思います。


そして、この本には、そのヒントがたくさん隠されているような気がします。



興味がある方はこちらから購入できます。👇


というわけで、今回は、チャプコヴァー・ヘレナさん、荒俣宏さん、安藤礼ニさん、熊倉一沙さん、ソルター・レベッカさん、夏目房之介さん、藤野茂さんによる「非凡の人三田平凡寺 を紹介しました。



そして最後に、この場を借りて、この楽しい本をプレゼントしてくれたレベッカさんに感謝申し上げます。



それではまた。

コンカズ

*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Exploring the Cult Phenomenon: Inside the Pages of ‘The Extraordinary Man – Mita Heibonji’

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