洋書レビュー

海の再生と未来:『Rewilding the Sea』で学ぶ海洋保護の重要性



どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。


今回紹介するのは、イギリス出身の環境ジャーナリストで作家のチャールズ・クローバーさんによる “REWILDING THE SEA” というタイトルの本。


日本語版の本はまだ発売されていませんが、もし邦題をつけるとしたら「海を再び野生の状態に!」って感じになりますかね。

image taken from Penguin Books


毎日毎日、尽きることなくスーパーマケットに並ぶ魚料理、寿司や刺し身。


基本的に、これらを購入したり、食したりする際に、海の中で何が起こっているかを考える人なんて、ほとんどいないと思います。

しかしながら…

今日も当たり前のように美味しい魚料理を楽しんでいる人たち(特に日本の食文化に親しんでいる人たち)は大勢いるかと思いますが、実際のところ、今あなたが箸でつまんでいるその寿司や刺身は、近い将来食べられなくなるかもしれません。

もしあなたが食卓から魚料理が消えてほしくないのであれば、まずはチャールズ・クローバーさんの本を読んで、現在の海の状況を知ってください!



もう海にはほとんど魚が残っていませーん!!!!!!!!!!!

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チャールズ・クローバーさんは何者?

image from Amazon.co.uk

というわけで、まずは著者の紹介から。

チャールズさんは、元々「デイリー・テレグラフ」で環境編集者として働いていて、後に「サンデー・タイムズ」に加入。環境メディアの枠で最優秀ジャーナリストに3度も選ばれています。

実は、この本よりも前に “The End of the Line” – (How Overfishing is Changing the World and What We Eat) という書籍を出していて、その本の内容を元にしたドキュメンタリー映画が2009年に制作されました。

そして、この映画の制作に関わった人たちとともに、のちにブルー・マリーン財団Blue Marine Foundation)を立ち上げ、現在も海洋保護と持続可能な漁業の実現をを目指して闘っています。


乱獲 (overfishing)

image by joakant

まずは “overfishing” の定義ですが…

The practice of harvesting fish at a speed that exceeds their natural reproduction rate, leading to population depletion.



つまり


魚たちが自然に再生可能な速度を超えて過剰に捕獲すること


となります。

繁殖に必要な最小限の数を維持できなくなってしまうと、生態系のバランスも崩れてしまい、さらには食物連鎖全体が変化する可能性まで出てきてしまうというわけです。



チャールズさんが海の調査を始めた頃、イギリスとEUのどちらの漁業大臣も現状を全く理解していなく、法律で漁獲量の上限を設定していたものの、その数値は科学的な根拠に基づく「これ以上獲ると魚の数が回復しなくなる」という基準を大幅に超えていました。


気候変動への関心が高まる一方で、驚くべきことに、海の中で何が起きているのかに注目が集まり始めたのは、つい最近のことのようです。

底引き網を使った魚の捕獲

image by Detmold

底引き網漁 (トロール漁) は英語で


bottom trawling


と表現されますが、この漁法が海の中で「破滅的な被害」を及ぼしています。




底引き網漁の歴史は非常に長いのですが、時代とともにテクノロジーが進化し、現在では…

🔹ドローンを利用して魚群を探知

🔹GPSや衛星追跡技術を使って魚群が集まりやすい海域や回遊ルートを把握


🔹ビームトロール
(ビームは、網を引っ張るための長い金属フレームで、両端に重りがついており、これにより網が海底を安定して引きずることができる。)


など、魚たちが逃げることがほぼ不可能な状況になっており、その影響はメチャメチャ深刻です。


チャールズさんが、本の中で一般の人たちが想像しやすいように、世界の海で毎日行われているトロール漁を陸上に例えて説明している部分があったので、ここに載せておきます。

アフリカのサバンナを巨大な機械がビームトロールで引きずり回す光景を想像してみてください。
この機械はライオンやチーター、どっしりとしたサイやゾウ、インパラやヌーの群れ、そしてイボイノシシからリカオン家族の群れまで全て巻き込んでいきます。そんでもって、転がるビームが障害物を砕いて平らにし、逃げようとする生き物をネットに追い込み、跡地には耕された畑のような荒れ果てた景色が広がります。



こんなことが同じ場所で1日に何度も繰り返されている場所もあるというので、そりゃもう、たまったもんじゃありません!!!


案の定、現在では先ほど述べた最新のテクノロジーを駆使しても、海に魚が残っていないため、130年前に比べて漁獲量はわずか6%にまで減少しているそうです。


*トロール漁のことが日本語でも読める “MONGABAY” というサイトを見つけたので、興味がある方はこちらもどうぞ。

牡蠣 (oyster)

image by photo-graphe

いろんなストーリーが描かれていますが、中でもこの牡蠣(カキってこんな漢字やったんや!)のセクションが個人的に心に残ったので、ここでフィーチャーておきます。


いきなり良くないニュースですが、

過去1000年の間に、かつて世界に存在していたカキの生息地の90%以上が失われたと推定されています。


その主な原因は、先ほど触れた過剰採取や底引き網漁業、さらには dredger(下の写真参照)による生息地の破壊とされています。

image by sam-healey (ワルそうなシャベルがいかにも海底を破壊しそう)



で、このカキなんですが、実は生態系において非常に重要な役割を果たす生物

keystone species

のうちの1つとされていて、この種が存在することによって、他の多くの種やその生態系全体がバランスを保つことができるそうです。

地上だと、オオカミ (Gray Wolves)がキーストーン種として知られています。



カキはエサを食べる際に水を浄化します。

本の内容によると、1匹の成体のカキは、驚くべきことに、1日に最大で140リットルの水をろ過することができるそうなんです。



このため、カキが生息するエリアには、さまざまな生物が集まってきます。


カキが取り除かれてしまうと、水中の栄養分をろ過する能力が失われてしまうことになり、藻類の異常繁殖がおこり、環境の悪化が進んでしまいます。



そこでチャールズさんと仲間たちは、ワイト島とイギリス本土を隔てる長さ約20マイルのソレント海峡が、藻類だらけで死にかけている現状を理解した時、この海域を再生するためにカキの復元に取り組むことを決意し、実行しました。

モルディブ諸島の環境ジレンマ

image by peggy_marco


上の写真は、インド洋に位置する環礁で構成されたモルディブ (Maldives)。



環礁(英語でatoll [ætɒl] )とは、サンゴ礁が環状または半環状の形で形成された地形で、人が住んでいる島と無人島があります。

サンゴ礁は、多くの海洋生物にとっての「棲家」としての役割を果たし、そこでは数えきれないほどの生物が共存するため、前述したカキと同じく “keystone pieces” となります。



…が、このサンゴもヤバい状態となっております。


特にモルディブ諸島のケースは独自の状況にあるため、ここでフィーチャーしておきます。

モルディブの漁師たちは、マグロを捕まえる際に底引き網を使わず、釣竿と釣り糸を使って魚を一匹ずつ釣り上げる方法を採用しています。



この漁法は過剰漁獲を防ぐことにつながっており、大規模な産業漁業と比べて非常にエコフレンドリーなのですが…


この方法だと魚を釣るためにエサが必要となります。

サンゴ礁(coral reef)を棲家とする魚たちは “reef fish” と呼ばれますが、これらが漁師たちの漁法において大量に必要とされる「エサ」として捕獲されるほか、地元住民や観光客によって食用としても捕まえられており、reef fish の減少が問題となっています。



reef fish はサンゴ礁付近に繁殖するプランクトンを食べることで、サンゴの健康維持に貢献しており、サンゴと reef fish は互いに win-win の関係にありました。しかし、reef fish の減少に加え、温暖化の影響も重なった結果、現在ではサンゴの白化が進行しています。

マグロなどの大きな魚を捕らえる際に底引き網を使わないことは過剰漁獲の防止につながっていますが、そのエサとなる魚の過剰漁獲がサンゴ礁の死滅を招いているのは、何とも皮肉なことです。


遠洋に出たらやりたい放題!

image by yochikazoo

世界で水揚げされる魚の半分近くは、中国、EU、日本、ロシア、台湾、韓国、そしてアメリカによるものだとされています。しかし、その中でも特に中国EUの漁業活動には非常に厳しい批判が寄せられています。

EU、特にスペインの漁船は、他国や地域と結んだ漁業協定で定められた漁獲量の上限を守らず、インド洋など、自国から離れた場所の海を荒らしまくっています。



これによって現地の魚資源が減少し、周辺国の小規模漁業者や海洋生態系が大きなダメージを受けています。




中国の場合は、もっとえげつないです。


中国の遠洋漁業船隊の数は、管理が行き届いていないために、中国自身が考えていた以上に大きくなってしまっていて、中国政府が公式に望んでいる規模の4倍にまで達してしまっています。

2014年の時点で、国連の関係者は、中国の遠洋漁業船隊は3,432隻 (EUの船隊のほぼ14倍)であると考えていましたが、2020年のロンドンに拠点を置く海外開発研究所の報告によると…

中国の遠洋漁業船隊は少なくとも12,490隻であり、さらに17,000隻が中国の海域外で漁を行う能力を持っている!


ことが分かっているのです。



(ちなみに、これらのほぼ全てがトロール漁!!!)


さらに他の国で漁業を行うためのライセンスを取得すると、その国に工場を建て、地元の人達の生活に必要な分の魚まで捕まえて、フィッシュオイルや魚粉 (肥料や動物飼料など) を生産して自国や他国に輸出します。



このような活動が、地元の経済を破壊する原因となっています。


最後に…

image by Wexor tmg

というわけで、私たちの海は現在、とにかく悲惨な状態にあります。



チャールズさん曰く、ボロボロになった海を回復させるためには、世界中になるべくたくさんの


No Take Zone


を確保すべきだと訴えています。



「海を復活させるためには、人間が一歩引いて、自然に海をコントロールさせるべきだ。」ということです。



そして最近では、底引網漁業が排出する温室効果ガスの量が、なんと航空産業と同じくらいだと見積もられているため、さらなる緊急の対処が求められています。

もし海を再生し、すべての人類の利益のためにその豊かさを取り戻すのであれば、地球に住む私たち全員がこの挑戦に参加しなければなりません。



最後にもう一度リマインドしておきますが、


もう海にはほとんど魚が残っていません!!!




というわけで、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

“give and take” の後は、また “give” です。


それではまた。

コンカズ

*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 What You Need to Know About Rewilding the Sea: A Summary of Charles Clover’s Book

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