どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。
今回紹介する洋書は、世界的に知られるアメリカ出身の政治哲学者、言語学者、そして大学の教授でもあるノーム・チョムスキーさんによる “Who rules the World“ です。

僕がこの書籍を手に取ったのは、LBCラジオ局のプレゼンターであるジェームズ・オブライエンさんの著書 “How They Broke Britain“ のイントロで引用されていたことがきっかけ。
さらに、政治関連のYouTubeチャンネルを聴いていると、Chomskyさんの名前が必ず出てくるので、いつか必ず読んでみたいと思っていました。
Chomskyさんの著書 “Who Rules the World?” は、アメリカ政府がこれまで行ってきた政策や行動を暴露しており、特に中東のイスラエルを含む国々では、アメリカの影響力が強く及んでいるため、販売が制限されていることもあるようです。
アメリカが裏でどのような仕組みを作り、他国をコントロールしてきたのかを知りたいのであれば、この本は最適な書籍です。
アメリカは、本気で世界が自分たちの所有物だと思っている

“The right to dominate is a leading principle of U.S. foreign policy found almost everywhere, though typically concealed in defensive terms” 「第8章からの引用」
チョムスキーさんのこの本を読むと、アメリカという国の政策が、民主党・共和党の違いに関係なく、病気レベルで「自分たちが世界を支配する権利がある」という固執した考えに基づいていることが、理解できます。
僕は、オバマ大統領をはじめとする民主党のリーダーたちの方が、共和党のリーダーよりも多少は道徳的な良心を持っていそうなイメージを持っていたのですが、実際はまったくそんなことはなく、冷酷極まりないことばかりやっています。
民主党・共和党のどちらが政権を握ろうとも、アメリカは世界のあらゆる地域に介入して、資源・軍事・経済の面で自国の利益を優先し続けてきたことが分かります。
ここでいくつかの例を挙げておきますと…
共和党の例

リチャード・ニクソン(1969-1974)
冷戦時代に、共産主義の拡大を防ぐことを最優先する政策をとってきた大統領。
特にチリの社会主義者、サルバドール・アジェンデが選挙で勝利し、鉱山や銀行、主要産業の国有化を進めて社会福祉を強化すると、「これじゃアメリカの利益が損なわれてしまう」ってことで、反アジェンデ側につき、CIAを通じてクーデター計画を支援。結局ピノチェト軍事独裁政権を誕生させてしまいました。
ベトナム戦争の際にも、基本的に「民主主義はアメリカに都合の悪い伝染病」と考えているので、ベトナム戦争に直接関与していないカンボジアとラオスを、予防接種として秘密裏に爆撃を行い、多くの民間人が犠牲になりました。
ロナルド・レーガン(1981-1989)
こちらのリーダーも、冷戦時代に「民主主義防衛」を掲げて、中央アメリカや南アメリカでの独裁政権キープのために力を注ぎました。
1979年に中央アメリカのニカラグアで、サンディニスタ民族解放戦線 (FSLN) が当時の独裁政権を破って、社会主義的な左派政権を樹立し、農地改革や貧困対策を進めました。これに対してレーガンは、サンディニスタ政権を転覆させるために、反政府武装勢力 (コントラ) を支援。
コントラが、民間人虐殺などの人権侵害を繰り返すのに対し、レーガン政権は、彼らを「自由の戦士」として擁護し続けました。
同じような内容で、エルサルバドルでは軍事政権を支援し、民間人虐殺を黙認。さらにグアテマラでも軍事独裁政権を「民主主義の指導者」と称賛して擁護し、約15万人ものマヤ系先住民の虐殺に加担しました。
ジョージ・W・ブッシュ(2001-2009)
ジョージ・W・ブッシュと言えば、2001年9月11日に起こった同時多発テロ時の大統領。
アフガニスタンのタリバン政権が、アルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンをかくまっているとして、アフガニスタンに侵攻。結局、ビン・ラディンは逃げ延び、多くの民間人が犠牲となり、死者は数十万人にも上りました。
イラク侵攻では、サダム・フセイン政権が「大量破壊兵器」を保有し、テロリストに提供する危険があると主張して、証拠もないのに強引に開戦。戦争後は、結局「大量破壊兵器は存在しなかった」ことがわかり、国をボロボロにしただけで、アフターケアもなし。
パレスチナ関連では、イスラエルへの軍事支援として300億ドルの10年間契約を締結し、これによってイスラエルでは戦闘機やミサイル防衛システムの導入などが進んで、パレスチナ問題への圧力を強めました。
民主党の例

ジョン・F・ケネディ(1961-1963)
彼が大統領になる少し前に、キューバでフィデル・カストロが革命を起こし、アメリカ寄りの独裁者を追放するのに成功しています。
このカストロが、ソ連との関係を深めていったために、前任者のアイゼンハワー政権の時に計画された、亡命キューバ人を訓練してキューバに上陸させてカストロ政権を転覆させようという案を実行。(結局失敗)
あと、ベトナム戦争ではアメリカの関与を拡大し、戦争の泥沼化を促進させました。
ビル・クリントン(1993-2001)
ユーゴスラビア崩壊後、セルビアからのコソボ独立を求めて、アルバニア系武装組織がセルビア軍と衝突していたのですが、これに対してクリントンは「人道的介入」を掲げて、国連の承認なしにNATO軍を使い、セルビアを空爆。民間人が多数犠牲になりました。
また、ジョージ・H・W・ブッシュ(ジョージ・W・ブッシュの親父)がイラクのサダム・フセイン政権に対して行っていた経済制裁を継続し、その結果、50万人以上のイラクの子どもを死亡させた際に、「その犠牲は正当化できる」なんて発言もしています。
バラク・オバマ(2009-2017)
「平和主義者」「戦争を終わらせる大統領」のイメージで2009年にノーベル平和賞まで受賞していますが、実際には戦争や軍事介入を大幅に拡大させています。
2011年、北アフリカで起こった民主化運動「アラブの春」の影響を受けて、言論の自由も制限されていたリビアで反政府デモが発生しました。
カダフィ独裁政権がこれを武力で弾圧すると、オバマ政権はフランスやイギリスとともに「人道的介入」を名目にNATOによる空爆を実施し、カダフィを排除。しかし、クリントンのコソボ空爆やジョージ・ブッシュのイラク侵攻の時と同じで、介入後にアフターケアをしないので、国は内戦状態に。現在でも武装勢力が支配し、人身売買が横行する「破綻国家」となってしまっています。
またオバマ大統領は、ドローン攻撃を大幅に増加させ、それを使って無差別に攻撃するので、パキスタン、イエメン、ソマリアなどで多数の一般市民の犠牲者を出しています。
というわけで、上の例からも理解できるように、共和党も民主党も関係ないです。
先ほども述べましたが、アメリカ政府は基本的な原則として、「世界は事実上アメリカの所有物であり、それは当然の権利である」と考えているので、アメリカにとってアメリカが世界中で大規模な攻撃的軍事力を行使するのはまったく正当なことであり、アメリカ自体が本質的に「善の力」なので、他の国々がそれを邪魔する行為はすべて「悪」とみなされるわけです。
民主主義は都合が悪い?

上のセクションでも触れたように、アメリカは、軍事・経済・外交のあらゆる手段を駆使して、他国の民主主義の発展を妨害してきました。
その根底にあるのは、かつての大英帝国の植民地主義と同様の発想で、
他国から資源を搾取し、それを利用して自国の技術を駆使して製品を生みだし、それらを再び他国に売りつけて利益を最大化する
という構造です。
アメリカの企業は南アメリカや中東などの資源が豊富な地域に進出して、石油や鉱物、農産物などの資源を搾取してきました。
しかし、そこで民主的な政権が誕生してしまうと、国民の利益が優先されてしまうので、アメリカ企業の支配に歯止めがかかってしまいます。
そうならないためにも、アメリカ政府は独裁政権を支持し、軍事クーデターや秘密工作を通じて、自国にとって都合の悪い政府を排除してきたというわけです。
🔹アメリカ政府による秘密工作の例
秘密工作の例で、特に印象に残っているのが、1970年代にコロンビアの外務大臣を務めたアルフレド・バスケス・カリソサ氏の話。
彼によると、ケネディ政権がブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、そしてコロンビアに導入した「国家安全保障ドクトリン」は、国内の通常の軍隊を対反乱部隊へと変貌させて、軍に「国内の敵」と戦い、抹殺する権利を与えるものだったとのこと。
そして、その「敵」とは社会福祉活動家、労働組合員、体制に従わない一般市民を指し、人権活動家であるアルフレド氏自身も命の危険を感じていたと言います。
こういった作戦は、CIAや軍事顧問団を通じて秘密裏に実施され、公式な記録にはほとんど残らないので、アメリカ政府も表向きは関与を否定することが可能だったというわけです。
🔹テロリストはアメリカが作っている
チョムスキーさんは、アメリカの外交政策や軍事行動が、反米感情を高め、結果として新たなテロ組織を生み出していると述べています。
例えば、前にも述べたように、ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代に、アメリカは、イラクが大量破壊兵器を保持しているという疑いがあるとしてイラクに侵攻し、サダム・フセイン政権を崩壊させましたが、その結果、国が無政府状態になってしまいました。
これによって国民の反米感情が高まって、旧フセイン政権の軍人やスンニ派勢力の一部が反米武装勢力となり、結果として国際的なテロ組織 “ISIS(Islamic State of Iraq and Syria)” が誕生したのはよく知られています。
それと、オバマ大統領が拡大した無差別ドローン攻撃も、テロリストが生まれる原因となっています。
ドローン攻撃の標的は「テロリスト」とされていますが、村人や子供が巻き添えを喰らうケースがかなり多く、パキスタンでタリバン・アルカイダを標的にした際には、1人のターゲットを殺すために28人の民間人が殺害されたと報告されています。
結婚式や村の集会まで平気で誤爆するので、遺族や地元の一般市民が「アメリカは敵だ」と考えるようになるのは当然です。
その結果、「若者が過激派にリクルートされ、復讐のためにテロ組織に参加」というサイクルが生まれてしまうわけです。
パレスチナ問題とアメリカの二重基準

パレスチナに関する内容はこの本の中で頻繁に出てきますが、チョムスキーさんは、アメリカは「人権」や「民主主義」を掲げて他国に介入しているように見せながら、それらを自分の国に都合のいいように利用してきていると強烈に批判しています。
アメリカは、自国にとって敵対する国が人権を侵害するような行為をとれば批判し、逆に同盟国が同じ行為をしても、それを支持、または容認します。(二重基準)
というわけで、結局アメリカは一貫してイスラエルの立場を擁護してきているわけです。
国際法に違反しているにもかかわらず、イスラエルの入植活動は何十年も続いており、パレスチナの土地を徐々に侵食しています。このような行為に対して、アメリカは表面的には懸念を示しますが、実際のところは軍事支援や外交支援を通じてイスラエルをサポートしています。(映画 No Other Land を観てください。)
ガザ地区(Gaza Strip)とヨルダン川西岸(West Bank)

ここで少し復習を兼ねて、パレスチナがどのような経緯で「ガザ地区」と「ヨルダン川西岸」の2つの領域に分かれることになったのかを見ていきます。
① まず、イスラエルが1948年に建国される前はどういう状態だったかというと、この地域は16世紀に建国されて以来、他の民族や宗教にも寛大なオスマン帝国が支配していて、主にアラブ人(ムスリム)、そしてキリスト教徒やユダヤ人もいっしょに住んでいました。
② ところが、第一次世界大戦中にイギリスは、オスマン帝国と敵対していたアラブ人に「アラブ独立国家」を約束する一方で、戦費を得る目的もあり、ユダヤ人にはこの地域に「国家的郷土」を築くことを約束しました。これは明らかに矛盾した二重の約束でした。
③ 戦後、勝利国となったイギリスは国際連盟からパレスチナの委任統治権を得ます。その間、ヨーロッパで迫害されていたユダヤ人たちが、シオニズム運動の影響もありパレスチナに移住してきました。
④ これによってアラブ人住民と、ユダヤ人住民との間で対立が起こり、イギリスが統治を続けられなくなったため、問題を国連に委ね、1947年に国連によってパレスチナ分割案が出されます。
⑤ ところが1948年、イギリスの統治終了直前にイスラエルが一方的に建国宣言。
⑥ これによって、周辺のアラブ諸国(エジプト、ヨルダン、シリア、イラクなど)が軍事介入してきて、 第一次中東戦争が勃発。
⑦ 結果、エジプトがガザ地区、ヨルダンがヨルダン川西岸を占領して、多くのパレスチナ人が難民となってしまいます。
⑧ その後1967年の第3次中東戦争で、イスラエルがガザ地区と西岸地区を軍事的に占領し、両地域ともイスラエルの支配下に置かれることに。
⑨ 1993年、アメリカが入ってきて、オスロ合意によってパレスチナ人の自治を目指す枠組みがスタートされます。
オスロ合意

このビル・クリントンが両国の代表の後ろで両手を広げ、「アメリカこそ平和の仲介者ですよ〜」と世界にアピールしているような、まるで「平和の枠組み」に見えるオスロ合意は、実は「占領の終わり」ではなく、「イスラエルによる占領を新しい形で維持するための枠組み」だった、とチョムスキーさんは見ています。
彼は『Who Rules the World?』の中で、オスロ合意には将来の「パレスチナ国家」樹立についての具体的な内容が含まれていなく、結果的にイスラエルが入植地の拡大や壁の建設を進める隙を与えていたと指摘しています。特にヨルダン川西岸では、オスロ合意後、アメリカの黙認のもとでユダヤ人による入植が加速したとして、強く批判しています。
今現在のパレスチナの状況を見れば、チョムスキーさんが言うように、アメリカが仲介者という立場をとりながら、常にイスラエル寄りの立場で交渉を進めていたのは明らかですよね。
PLOとPA、そしてHamas

この機会に、パレスチナの政治についても少し整理しておこうと思います。
▫️ PLO(パレスチナ解放機構)
PLO(パレスチナ解放機構)は、先ほどのオスロ合意の場でイスラエル代表と握手を交わしていたアラファト議長が率いていた、パレスチナの諸組織をまとめた連合体で、1964年に創設されました。
国際社会では「パレスチナ人全体を代表する公式な組織」として認識されており、主に外交交渉の役割をやっています。
アラファトさんが創設した Fatah (ファタハ)と呼ばれる政党が、このPLOの中で主導権を握っています。
▫️ PA(パレスチナ自治政府)
PA(パレスチナ自治政府)は、PLOの枠組みの中で1993年のオスロ合意に基づいて設立された、暫定的な自治政府です。
PLOとイスラエルの交渉により、「ヨルダン川西岸」と「ガザ地区」を将来的なパレスチナ国家の基礎とするための枠組みの一部として設立されました。
しかし、2006年のパレスチナ議会選挙でイスラム主義政党のハマス(Hamas)が勝利したことにより、ファタハを中心とするPAとの間で深刻な政治的・軍事的対立が発生し、現在PAはヨルダン川西岸のみを統治しています。
ファタハも構成員の多くはイスラム教徒ですが、宗教に基づく政治ではなく、パレスチナの民族的独立や自治を重視しているのに対し、ハマスは明確にイスラム主義(イスラームの教えを基盤とする国家)を目指す思想を持っています。
▫️ ハマス(Hamas)
ハマスは1987年に設立されたイスラム主義組織。イスラエルとの和平プロセスに批判的で、武力による抵抗を掲げています。
2006年の議会選挙でPA内で勝利した後、PAとの対立の末にガザ地区を事実上掌握し、現在はガザ地区を実効支配しています。
なお、ハマスは欧米諸国(アメリカ・EUなど)ではテロ組織と指定されています。
*2007年以降、パレスチナの政党がこのように分裂している状況は、イスラエルにとって都合がよく、「統一政府が存在しない」「誰と交渉すべきかわからない」といった理由を使って、和平交渉を長年引き延ばすことが可能になっています。
まとめ

チョムスキーさんの本を読んで見えてくるのは、アメリカが掲げる「自由」や「民主主義」が、実際には自国の利益のために使い分けられているという現実です。
表向きでは、世界の秩序や平和を守るリーダーとして振る舞う一方で、その裏では暴力や介入、そして沈黙によって人々の声を押さえ込んでいるのが理解できます。
先進国に住む私たちは、発展途上国で起きていることに関心を持ちにくく、パレスチナや他の国々での出来事を
「どこか遠いところで起こっている世界の話」
と捉えてしまっているため、私たちがふだん何気なく使っているモノや便利さが、そのどこか遠い国の人々の犠牲の上に成り立っている事に気づいていません。
今こそ、私たち自身の立ち位置や価値観を見直すことが大切なのではないかと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Who Rules the World? Summary & Key Takeaways from Noam Chomsky’s Book