洋書レビュー

Brexitの失敗と解決策:ピーター・フォスター氏の著書を読んでみた。



どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。


今回紹介する書籍は、ベテラン・ジャーナリストである ピーター・フォスター さんによる著書


WHAT WENT WRONG WITH BREXIT(and what we can do about it)” 。

image taken from Amazon.co.uk

2023年に出版された比較的新しい本であり、現在のイギリスの状況を理解するのに最適な本と言えます。

本の構成はと言うと、はじめの3分の2は、


ブレクジットが起こった背景と、それによって生じているイギリスへの具体的な影響」に関して。


そして残りの3分の1は


ブレクジットによる最悪な結果に嘆いているヒマはない。現実を受け止めて、しっかりと向き合っていかないとこの国はヤバイぜ!


という内容となっております。

この本をしっかり読むことで、EU(ヨーロッパ連合)離脱はどこがどうイタイのか?ということが理解できるとともに、イギリスとヨーロッパに関する経済関連の英語ボキャブラリーもかなり学ぶことができます。

と言うわけで、超簡略なまとめではありますが、興味のある方は読み進めていってください。

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What went wrong with Brexit

image by Samuel Regan Asante
(左からBoris Johnson, Michael Gove, Sajid Javid, and Jacob Rees-Mogg)

戦後のヨーロッパの平和を保つための土台となった EU (European Union)。


EUという世界最大の経済ブロックに参加していた事で、すでに「グローバルなイギリス」という目標は達成されていました。

ところが *Brexiteer達は、EUがイギリスの成長の足かせになっているという空気を作り上げ、「EUの束縛から解放されて、イギリスをグローバルな国家に」というメッセージを、ブレクジット達成のために国民に何度もアピール。( *EUからの離脱を支持する個人、または団体。)


そこで自国が過去に大英帝国として力を振るっていた歴史からくるノスタルジーも手伝って、「俺たちは特別なんだ!」「束縛なんて真っ平ごめんだぜ!」という、保守党勢力がバラまいた病気に感染し、2016年のブレクジット国民投票で「EUから離脱」に過半数が投票。

本当に抜けてしまいました。

あれから7年…

保守党が国民に約束した、輝かしい未来は、いまだ何処にも見られません。

Fuck Business! (ビジネスなんてクソ喰らえ!)

image by Jannes Van Den Wouwer

2018年、「なぜ Brexiteer達は、ブレクジットによる経済的な影響を考慮に入れないんだ?」という質問をぶつけられた、当時外務大臣をやっていたボリス・ジョンソンの答えは…

Fuck business!” W (… 笑えません)

政治家と言うよりは、むしろプロレスに出てくるキャラのイメージです。

で、実際にブレクジットがなされた後、国民が痛い目に遭っているのが、この”fuck business” によるアフターマス。

結局は保守党勢力が頭の中で描いている「イギリスはEUなんて足元にも及ばないスゲー国なんだ」とう、上から目線のカタチを、自国の産業、ビジネスを無視してでもつくりたかった、といった感じなのですが…

EUに所属している間は、ヨーロッパの国々への物資の輸送が、イギリス国内への輸送と同じプロセスで行うことができたのに、ブレクジット後は、EU圏内に入る際に必要とされる手続き(red tape)の山。そして、イギリスの各業者は毎回物資を輸送するたびに、この膨大な手続きの山の処理を、EU内のそれぞれの国とやらなければならない羽目に。



特に食物の輸出は、手続きに時間がかかりすぎて、市場に届く頃には新鮮さを失って、その価値や魅力が半減してしまうという始末。

手続きに時間がかかることによって遅れがでたら、クライエントを怒らせることになるので、お客は離れていってしまいます。(手続きの中には、許可が降りるまでに3ヶ月もかかるものも!)


以上のことから、小さな企業は、手続きにかかるコストや時間の問題から、ヨーロッパの国との取り引きを諦めざるを得ない状態に追い込まれてしまいました。

Take back control” のスローガンを掲げ、規制から自由になるのを目標としていたのに、いざ離脱してみたら、EUのメンバーであったことで28の国が一つのルールの元にやり取りできていた事が、すでに「規制緩和」であったという事実が明らかになってしまったのは、なんとも皮肉な話です。

移民問題

image by Metin Ozer

ブレクジットが起こった背景には、「移民問題」も深く関係しています。

イギリスが EUに加盟したのは1973年の事ですが、2004年に起こった「ECの拡大」をきっかけに、東ヨーロッパやバルト三国からも、イギリスに人が押し寄せてくるようになります。



この出来事をきっかけに、一部のイギリス人達の心の中に眠っていた「反移民感情」が徐々に高まっていきます。


EU市民は、EU圏内での移動が比較的容易にできるため、自国より経済レベルが高い国へと、仕事のチャンスを求めて移動する傾向にあります。

たくさんの移民が出入りするようになって以来、一部のイギリス国民は、外国人労働者が自分たちの雇用機会を奪ったり、給与を押し下げたりすると懸念していました。



そこで、2016年のブレクジット国民投票の際に、ナイジェル・ファラージが率いたイギリス独立党(UKIP) などが、移民問題を頻繁に取り上げたため、低賃金の仕事に従事するイギリス国民の「反移民感情」を高め、ブレクジットの是非に対する国内での意見の分裂を招くこととなりました。


で、EU離脱の結果で何がわかったかと言うと

ハンガリーやポーランドなど、東ヨーロッパからの移民は、イギリス経済の発展に大貢献していた。
近年出入りしていた移民のほうが、過去に移住した移民よりも断然働き者だった。
運送業の運転手、工事などの現場作業員、ホテルやレストランなどのサービス業で働く人員を大幅に失った。



British Chambers of Commerce (イギリスの商工業の議会) が2023年のアタマに行った調査によると、国内の80%の中小企業が、従業員を雇うのに現在とても苦労しているとのこと。


これでは経済がうまく回りませんし、国内の生産力も落ちるばかりです。

さらに移民問題には、EUメンバーの出入りだけでなく、戦争難民の受け入れという問題も関わってきます。



ブレクジット直前の2015年には、たくさんの難民がシリアで起こった市民戦争から逃れるために、地中海を渡ってギリシャやイタリアに押し寄せてきました。そこでEUは、この難民危機に対処するために協力し、難民の再分配や支援策を検討しました。


EUの国際協定の中には、移民・難民の受け入れと処理に関するルールを定めた “Dublin Agreement”(ダブリン協定)と呼ばれるものがあり、その中には、『加盟国は、圏内での最初の安全な入国ポイント、つまり 「最初に入国した国」に移民を戻すことができる』というルールも含まれていたのですが、EUから離脱してしまったら、イギリスはこのルールを適用できません。


フランスのカレーから、ボートを使ってイギリスに渡ってくる難民の中には、戦争難民も含まれています。


Brexiteer達は、EU離脱が国境における移民問題を解決すると信じているので、その期待に応えるために、ボリス・ジョンソン率いる保守党政権は、新たに渡ってくる難民をアフリカのルワンダに飛行機で送るという案を企てます


… が、これに対してフランスのストラスブールに拠点を置く、”European Court of Human Rights”(欧州人権裁判所) から、「お前ら、それはアカンやろ!」という”待った!”の声がかかります。


“European Court of Human Rights” は、EUとは関係ありませんが、それを支えている “Convention for the Protection of Human rights and Fundamental Freedom” (人権と基本的自由の保護に関する条約) に、イギリスも含めた46カ国が加入しているもっと大きな団体 “Council of Europe” (欧州評議会) が後ろについているので、イギリスはこれを無視することはできません。


というわけで、ブレクジットによって国境をコントロールするどころか、実際の状況は、EUから離脱する前よりも悪くなってしまったという結果に終わっています。

文化的な交流への影響

image by Kyle Glenn

ブレクジットによるダメージは、経済的な部分だけにとどまりません。

イギリスとEUのお互いが、自国への入国を規制するために “red tape” を張り巡らせているため、その影響は文化的な交流にも響いてきます。

ミュージシャン

残念ながら、経済的に余裕のある、よっぽどかの大物ミュージシャンでない限り、イギリスのミュージシャンによるEU圏内でのライブは、現在のところ「あきらめ状態」となってしまっています。

機材を運ぶ車が、「売り目的」「輸出目的」でないかを証明する手続き、そして “cabotage”(カボタージュ) と呼ばれる、運転手が国内での移動でストップできる回数を制限するルールなどによって、自由がきかなくなってしまっているため、ツアーでいろんな街でストップしなければならないミュージシャン達は、完全にお手上げです。

Au pair (オーペア)

オーペアとは、海外の現地家庭に住み込んで、子どもの面倒や家事をする代わりに、滞在先の家族から報酬をもらって生活するという、若者の国際交流を手助けするプログラム。

これによってオーペアは、イギリスの家族、またはイギリスでの生活から、生の英語を学べると同時に、イギリスの家族の子供もまた、オーペアから彼らの国の言葉や文化を学べるという “win-win”のシステムが成り立っていました。

しかしながらEU脱退後は、オーペアはイギリスが指定した “SOL” (Shortage Occupation List) には含まれないし、さらには特殊な技術を持つ人たちに許可される”Skilled Worker Visa” ももらえないのでアウトとなってしまいました。

修学旅行

EU圏内の学生は、脱退以前は「ナショナルIDカード」を持っていたら、イギリス国内に出入りすることができました。

ところがEU脱退後、入国する際に使われていたそのカードの使用を、イギリス政府が廃止してしまったため、ナショナルIDカードは持っているけどパスポートがない、という生徒達は入国NGとなってしまいます。

さらにボリス・ジョンソン政権は、グループパスポートのシステムをリストから排除してしまったため、クラス全体としてのEU学生の入国が不可能となってしまいました。

スクールトリップはEU圏内の子供達がイギリスの文化を学ぶことができる素晴らしい機会だったのに、それができなくなるのは非常に残念な事であるとともに、こんな事をすることで、EU諸国のイギリスに対する評価も下がってしまいます。

イギリス政府に対する信用の低下

image by Momka

前に述べた、難民をルワンダに送るという議案を含め、EUから離脱したことによって生じた問題を、イギリスの保守党政権は、なんとか自分らの都合のよくなるように持っていこうとしました。


しかしながら、そうするためには、非人道的な手段を取ったり、ルールを破ったりしなければならなくなるので、周囲からは白い目で見られます。

ただでさえ、”cakeism” (トレードオフではなく、選択肢の両方ともを自分のいいように持っていこうとする考え)丸出しの態度で、EU側から飽きられているのに、さらにこんな事を続けていたら、イギリスは、国際的にも他国からの信用をさらに失っていく、立場も悪くなっていく一方です。

また政府は、国の体勢を立て直すことよりも、ブレクジットを正当化(無理)するために、つじつまを合わせる事ばかり考え、商談なども焦ってケリをつけようとするため、経済的にも不利な立場に陥っていきます。

そうこうしている間に、国を動かしている大臣とその下で働く国家公務員との間の信用は薄れていき、ウエストミンスターはガタガタ状態。

こんな状態では、国民の怒りを買うばかりで、国の将来はますます怪しくなってきますし、イギリスは、確実にまわりから取り残されていきます。

What to do about it

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image by Reinaldo Sture

本の後半部分は、「ブレクジットによって国はボロボロ、それではここからどうすべきか?」という内容となっています。


まず大事なことは、

国を動かしている政府が「ブレクジット」を政治的、または観念的な局面から見るのではなく、経済的な面から見ていかないことには、国はこの先どんどん落ちぶれていく


という事実。

とくに、前の章「What went wrong with Brexit」の73ページから80ページのあたりで詳しく述べられていますが、もともとイギリスがリードしていたのに、ブレクジットによって大打撃を受けている「化学産業」、「自動車産業」、そして高度な技術を持つ「製造業」の分野に、いち早く手を打っていかなければならないと、著者は訴えています。

EUへ再加盟はありえるか?

image by Christian Lue

はい。結論から言うと、今のところはありえないようです

イギリスの2大政党である「保守党」「労働党」のどちらもが、この案を除外している、というのが理由です。

世論調査によると、国民の大多数が「再加盟」に投票するであろうと考えられていますが、実際のところ、たとえフランスのような国を説得して「再加盟」ができたとしても、一度EUを離れたイギリスに、歴代のリーダー達が勝ち取ってきた、EU内での「いいとこ取り」のできるポジションが再び戻ってくることは、どう考えてもありません。

逆に、 他のEU加盟国の負債を共有させられてしまうのがオチだ、と推定されています。



ノルウェーがやっているように「EUには加盟しないけど、EUのシングル・マーケットには参加する」という手段もあります。

しかしながら、オイルやガスなどがあって、国のサイズの割にはメチャメチャ金持ちなノルウェーと比べ、いろいろと細かいものを輸出しなければならないイギリスには、このポジションは向いていないそうです。

EUとの関係をリセットする

image by TBIT

まずは、EU、そしてEU加盟国それぞれの首都との関係を修復するところから始めなければいけません。

正直ここ数年間の、イギリスの交渉においての態度があまりにもヒドすぎて、評判はズタズタです。

て言うか、みんな言葉づかい悪いし、ボリス・ジョンソンは非合法的に国会閉じるし、国連の会議から早退するし、ドナルド・トランプと仲良いし… EUのみなさん、かなり怒ってます。


時は流れ、内閣総理大臣も2022年の秋には、Rishi Sunak (リシ・スナク)へと代わり、2023年の2月に彼は、*Northern Ireland Protocol の問題点を、EUとお互いがやりやすくなる方向に持っていった “The Windsor Framework” で成し遂げ、ポジティブな面も見えてきました。

*Northern Ireland Protocol (= 北アイルランド議定書)
EUからの離脱後の関係を定めたEU離脱協定の一部ですが、イギリスがEUから離れると 、EUとイギリスの境界線が、仲の悪い北アイルランドと南の北アイルランド共和国を分ける国境と一致してしまうため、ここで物資の出入りの手続きが行われるようになると、色々とややこしくなるのを懸念してもちあげられた議定書。

ブレクジットが起こって以来、EU側でも、事を取り扱っていたポジションに就いていた人達が入れ替わりましたが、それでもイギリスが EU側からの信用を取り戻すには、まだまだたくさんの時間が必要とされます。


しっかりと現実を見つめて、謙虚になって、誠意を見せ続けていくしか方法はありません。

2026年 TCAレビュー

image by athree23

TCAとは、 “The Trade and Corporation Agreement” の略で、2020年の12月末にイギリスとEUとの間でサインされた、ブレクジット後の貿易や協力に関しての規則を定めたもの。

この “TCA” の見直しが、合意から5年後となる、2026年に行われます。

そしてこれに先立って、イギリスでは国内総選挙があり、ここで政権を握った党がこの “TCA” の見直しの際に、何をどう持っていくかによって、今後のイギリスの将来が分かれてきます。


ここで、取り扱われるべき内容には、

動物や動物由来製品の輸出入に関する手続きや規制を明確にする
文化的な交流を含め、出入りが必要な人たちが動きやすくできるように、ビザの問題を解決する
双方の”Carbon pricing”(環境政策の一環として二酸化炭素などの排出量に対して料金や税金を課すこと)をリンクさせる
VATの改善
EU側が、輸出商品がちゃんと自国で生産されたかどうかをチェックする”Rules of origin”
EUの法規制に製品が適合しているかどうかを評価する”conformity assessment”
化学の分野で、EU離脱の際にEUの”REACH”に対抗して立ち上げた、邪魔でしかない “UK REACH”


などが挙げられます。


最後に、著者のピーター・フォスターさんが、この本をこのタイミングで出版した意図は、できるだけ多くの国民にこの本を読んでもらって、イギリスの現状をしっかりと理解してもらい、自国の将来のためにどの政党に投票するべきかちゃんと考えてもらう、と言うところにあると思います。


どちらにしても、良い結果が出て、イギリスの経済が少しでも回復することを祈ってます。🙏


というわけで、この本は今のところ、洋書でしか発行されていませんが、さらに詳しく知りたい方は下のリンクからどうぞ。👇


今回は “ピーター・フォスター” さんによる著書 “WHAT WENT WRONG WITH BREXIT(and what we can do about it)” を紹介しました。



それではまた。

コンカズ

*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Unraveling Brexit: Exploring ‘What Went Wrong with Brexit’ by Peter Foster and Solutions Ahead

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